寝入ってしまうわけにはいかない。
自分の身を守れるのは自分だけ。
荷物を持ち去られたらさらに厳しい状況に追い込まれる。
すでに、飲み物を一本買ったらもう本当に一文無しになるくらいなのだ。
というわけで、まんじりともせず、朝を待つ。
目の前にあるモニターには欠航の文字が容赦なく並ぶ。

そのなかでも、朝早くシンガポールに向かう便がまだ生き残っている。
これに乗ってシンガポールに脱出すれば日本行きにも乗りやすいだろう。
一日遅れであれば吸収できる。
さいわい、まだ仕事に穴はあかない。
4時ころだったか、カウンターが開いた。
まずはLCCのライオン航空窓口へ。
「飛ぶ?」
「飛ぶ」
「席ある?」
「ない」
ちっ。
並びのガルーダ航空カウンターへ。
「飛ぶ?」
「飛ぶ」
「席ある?」
「ある」
「乗る乗る!」
クレジットカードで支払い。
1万円くらいだっけ。
これで何とかなりそうだ。
ジャカルタに何日も足止めを食ったら、それはそれで楽しいけれど仕事はどうなるか…。
(実際には翌日くらいから運航再開となったらしいが、そんなこと予想できない)

荷物を預けて保安検査と出国審査を受け、まだ薄暗いターミナルを進む。
本当にこっちで合っているんだろうな。
これで乗り損ねたら目も当てられぬ。
野良wifiを捕まえ、買ったばかりのiPod Touchで東京の「Mさん」にメールを打つ。
「Mさん」は航空会社の人。
「これからガルーダでシンガポールに脱出することになりました」
「おまかせください」
私のチケットは特典航空券、要するにタダ券だったため経路の変更ができない。
シンガポールから帰国することは本来できない。
でも相手は火山の噴煙だ、非常事態だ。
搭乗時刻になったころ、返信が届いた。
「シンガポール発羽田行き○○便が取れました。お気を付けて」
涙が出るほど感激した。
「Mさん」は、予約センターの上の人に直接連絡を入れて私を救ってくれたのだ。
非常事態の奥の手、自分一人では解決できなかったことだ。
Mさん、ほんとうにありがとう!

シンガポール行きの737に乗り込む。

新車のにおいがする機体。
シートに収まると、緊張が解けていくのがわかった。

ようやくジャカルタを出発できる。
でも離陸するまでは安心できない。
…とはいってもやはり無事に離陸、機体は雲の上に出た。

久しぶりの食事がおいしかった。
ホッとして、睡魔に包まれた。
でもシンガポールまでは短いフライト。

やがて到着。

ターミナルも開放的。

なんだかハッピーな雰囲気。
ところで羽田行きは夜の出発。
でも今は朝でチェックインをやっていない。
インフォメーションで航空会社の人に電話をつないでもらって相談。
「ジャカルタが火山の噴火で閉鎖され、シンガポールに逃げてきた。ラウンジでシャワーを浴びたいからチェックインさせて」
これくらいの英語ならできる。
VIPカウンターへ行くように促され、その通りにした。
チェックインをすませ、着替えなどを持って保安検査を通過。
待望のラウンジへ。
昨夜は汗まみれだったわけでなにかと不快だ。

ラウンジのお姉さんにシャワーを浴びたいと伝えたら、ふかふかのバスタオルを貸してくれた。
シャワーでリフレッシュ、極楽とはまさにこのこと。

まずは無料のビールで祝杯をあげつつ、「Mさん」に改めてお礼と報告のメール。

薄暗いマッサージチェアを一つ占拠させてもらう。
ベッドのようにリクライニングする。

腹ごしらえをする。
おいら、お得意様だから全部無料。
一年だけだったが、マイル修行をやって本当によかった!
今回のラウンジ利用1件でその価値を思い知った。
あとは昨夜眠れなかった分を取り戻すかのように眠る。
初めてのシンガポールだが、観光に出かけるような元気はない。

そして、羽田行きのフライトへ。
本当はジャカルタ発成田行きだったのが、シンガポール発羽田行きになった。
羽田着、帰宅も便利といううれしい副作用。

機内でも食事。
胃に優しいおかゆ風のものをいただいた。
あとは静かに目を閉じたり映画を見たりして過ごした。
できたばかりの羽田空港国際線ターミナルへ到着、
到着口ではなぜか仲間が待っていてくれて、自宅まで車で送ってくれた。

長い旅が終わった。
さぁ、仕事だ!
(ジャカルタ編 完)
posted by inaviator at 00:00|
2010秋/Jakarta訓練
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